エジプト十字架の謎 [ミステリー]
〈国名シリーズ〉第5作である本作は、「T」の文字をモチーフとした連続殺人事件にエラリー・クイーンが挑む。私にとってはおよそ30年ぶりくらい再読となる。
したがって、ストーリー自体はすっかり忘却の彼方へと追いやられているため、新鮮な心持で読み進めることができたが、エジプト十字架(タウ十字架)をモチーフにした殺人事件だというエラリーの当初の見立てが誤りだったということだけは記憶に残っていた。
エラリーをして「ここまでこんがらがった事件は初めて」と言わしめた本事件だが、終盤の推理が終盤の推理が見事なくらいにシンプル過ぎて、唖然としてしまった(笑)連続殺人の捜査状況は芳しくなく、犯人の掌の上で踊らされている印象は否めなかったエラリーだったが、最後に一発逆転サヨナラホームランを放ったかのように鮮やかな名推理。
アメリカ大陸を縦断する大追跡劇の末の犯人確保は、エラリーものとしては珍しい大活劇で、さながら「エラリー・クイーンの冒険」といった感じだった。一方で、ホテルに伝言を残しつつの追跡劇に時代性も感じる。今なら携帯ですぐに連絡が取れるわけだが・・・。
でも、鑑識などによる科学的捜査が進んでいる現代であればまず起こりえない事実誤認も、この時代ならではのトリックとして十分楽しめた。
それにしても、エジプト十字架を持ち出して、暴走気味の推理を展開するエラリーを時に諫め、時に叱咤激励して捜査の軌道修正させるあたり、かつての恩師ヤードリー教授とエラリーのコンビは、クイーン父子に勝るとも劣らない名コンビなのではなかろうか。
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