HELLO WORLD [SF]
ひなた弁当 [小説]
文庫マークの木のしおり [プレゼント]
彼女と彼女の猫 [コミック]
主人公のOL美優と彼女に拾われ、チョビと名付けられた猫の日常は、一見するとどこにでもあるような極ありふれたもの。
彼女のことが大好きなチョビは、彼女との暮らしに満足しつつも、母親の再婚や仕事上のミスなどで寂しさや焦りを感じ、少しずつ傷ついていく彼女の心の変化を敏感に感じ取り、その身を案じますが、猫である故にどうすることもできないもどかしさを感じる。
ある日、いよいよ煮詰まった彼女が家を出て行ったときには、チョビがその所在を探し当てるという奇跡を起こす。まぁ、この奇跡にはタネがあったのだけれども(笑)
あまり多くを語らず、静かに綴られる彼女と猫の物語に好感を覚え、さすが新海誠の作品だと感じた。『君の名は。』はいろんな情報をこれでもかと盛り込んだ作品だと本人がインタビューで答えていたが、逆にこれは、引き算の作品のような気がした。
猫が起こす奇跡ということで、個人的にはちょっと「通い猫アルフィーの奇跡」を彷彿させた。
エジプト十字架の謎 [ミステリー]
〈国名シリーズ〉第5作である本作は、「T」の文字をモチーフとした連続殺人事件にエラリー・クイーンが挑む。私にとってはおよそ30年ぶりくらい再読となる。
したがって、ストーリー自体はすっかり忘却の彼方へと追いやられているため、新鮮な心持で読み進めることができたが、エジプト十字架(タウ十字架)をモチーフにした殺人事件だというエラリーの当初の見立てが誤りだったということだけは記憶に残っていた。
エラリーをして「ここまでこんがらがった事件は初めて」と言わしめた本事件だが、終盤の推理が終盤の推理が見事なくらいにシンプル過ぎて、唖然としてしまった(笑)連続殺人の捜査状況は芳しくなく、犯人の掌の上で踊らされている印象は否めなかったエラリーだったが、最後に一発逆転サヨナラホームランを放ったかのように鮮やかな名推理。
アメリカ大陸を縦断する大追跡劇の末の犯人確保は、エラリーものとしては珍しい大活劇で、さながら「エラリー・クイーンの冒険」といった感じだった。一方で、ホテルに伝言を残しつつの追跡劇に時代性も感じる。今なら携帯ですぐに連絡が取れるわけだが・・・。
でも、鑑識などによる科学的捜査が進んでいる現代であればまず起こりえない事実誤認も、この時代ならではのトリックとして十分楽しめた。
それにしても、エジプト十字架を持ち出して、暴走気味の推理を展開するエラリーを時に諫め、時に叱咤激励して捜査の軌道修正させるあたり、かつての恩師ヤードリー教授とエラリーのコンビは、クイーン父子に勝るとも劣らない名コンビなのではなかろうか。
献本プレゼント [献本]
会社から帰宅すると、郵便受けに私宛の荷物が届いていた。心当たりがないので首をひねりながら開封すると、中身は読書感想サイト「本が好き!」から届いたエラリー・クイーン『エジプト十字架の謎』だった。
先日、献本プレゼントの案内メールが来ていたので、何の気なしに応募したのだが、見事当選したもの。確か当選者は5名という募集内容で、とても当選するとは思っていなかったので、喜びもひとしお。
クイーンのこの作品は、遙か昔に読んではいるが、その内容はすっかり忘却の彼方へと飛んでいってしまっているので、新鮮な気持ちで読むことができる。
それにしても、 台風接近による大雨の中、届けられたらしく、外装が濡れてよれた状態だったので、内容物が無事か心配になったが、本自体はビニールに包まれていてセーフ!事なきを得て良かった(笑)
通い猫アルフィーの奇跡
飼い主の死とともに、これまでのような安穏とした生活を送れなくなると感じたアルフィーは、自由を求めて家を出て、野良猫となる道を選ぶ。でも、それまでの安全で快適な飼い猫の座とは異なり、厳しい生存競争に晒される現実に疲弊し、孤独に耐えきれず、「家族がほしい。愛情と安心感がほしい」というアルフィーの願いは悲痛な叫びにも似ている。
そこで、彼は、二度とひとりぼっちになるという憂き目に遭わないように、いくつかの家を行き来する通い猫となる決意をする。通う家庭は4軒。それぞれに何かしらの問題を抱えていると感じた彼が、猫なりにその解決を図り、新しい家族を作ろうともがく姿が涙ぐましいけれども、猫ゆえに人間と充分なコミュニケーションが取れず、そのジレンマにやきもきもする。
猫目線で見ると、人間って、かくも可笑しくも愚かしく、理解不能で厄介な存在なのであろう。猫の性格からして、さぞうんざりしているのではないだろうか。アルフィーが時にすねて、プイッと出ていきたくなる気持ちもわかる!
家族を守るために彼が最終的に選んだ行動には驚いたが、その健気な、そして固い決意に基づいた行動が引き起こす結末はまさに奇跡。
猫は、その行動から人生を達観し、醒めた目で世の中を見ている存在のように感じていたが、実際にこのように人間をよく観察し、このように感じているとしたら、猫を見る目が変わりそうである。そして、意外に熱血漢なのかも。
獲ってきたネズミや小鳥の死骸をプレゼントと称して玄関先に置く愛情表現は勘弁願いたいものだが(笑)
深泥丘奇談 [ホラー]
本格ミステリ作家である「私」が体験する怪異の数々。「それ」とか「あれ」という指示代名詞を多用し、全てが詳らかにされない勿体ぶり加減が、隔靴掻痒。主人公の言葉を借りればまさに「胡乱な気分に陥らざるをえなかった」(笑)
主人公は記憶障害に罹っているのか、「――ような気がする」という自信なさげなフレーズが随所に見られるのとは対照的に、「あれかもね」などと主人公が忘れている委細について訳知り顔の妻の存在が面白く感じられた。そのような曖昧模糊とした雰囲気作りが独特で、綾辻節炸裂という印象を受けた。
そして、もうひとつ、ほとんどの作品には「ちちち」とか「どどどっ」という音の表現が出てきていて、それが不気味な雰囲気を醸し出すのに一役買っている感じだった。
『悪霊憑き』という作品では、肝心の怪異が「*****」と伏字になっているのがもどかしく、その正体がとても気になったが、至極真っ当なミステリ作品の結末になっていたのには驚いた。これまた、本格ミステリ作家の面目躍如といったところか(笑)
全体的に恐ろしさよりも、ユーモア、そして時に爽快感すら感じさせるホラー短編集だった。
続編も刊行されているようなので、読んでみたい。
魔神館事件 夏と少女とサツリク風景 [ミステリー]
迷探偵・白鷹黒彦の事件簿第1弾。
嵐により外界から隔絶された洋館。そこで発生する連続殺人事件。舞台設定としては申し分ない。
圧倒的な暴力により殺害される被害者たちは悲惨です。とても大掛かりな、そして、極めて凶悪なトリック。想像の上を行く驚愕の犯人像に唖然とする。
ちょっと頼りない迷探偵・白鷹黒彦の暴走気味の推理。謎の多い博士・犬神清秀と天然キャラのその妹・果菜。彼らが程よいスパイスとなっているバカミス的ストーリーが、読んでいてハラハラさせられ、思いの外楽しかった。
私にとっては、村崎友著『風の歌、星の口笛』以来の大がかりなトリックに出逢ったという印象です。
海外SFハンドブック [SF]
SFが好きだなどと公言しながらも、掲載されている作品群をながめると、読んでいない作品が多くて凹んでしまった。
でも、未読の作品が作品が多いということは、まだまだ読書する楽しみが残っているとポジティブにとらえることもできるかな(笑)
特に『ミニタリーSF略史』の章が興味深かった。ミニタリーSFの走りであるハイラインの『宇宙の戦士』などが陸戦主体の物語であるのに対して、90年代に入ると、宇宙艦隊ものが主流になり、21世紀に入ると、同時多発テロや中東での戦争を背景に、再び陸戦ものが増えてきたように、SFはその時々の時代背景反映して変遷してきているのだと気付かされる。
私にとっては、渺茫たるSFの海へと漕ぎ出す際の羅針盤の役目を担う座右の書となってくれそうである。
因みに、この本で紹介されていたジョージ・アレック・エフィンジャー著『重力の衰えるとき』が面白そうだったので、積読本に追加した。