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ひなた弁当 [小説]

突然のリストラにより会社を追われ、徐々に生活が荒んでいく主人公の姿は読んでいても胸が痛む。


そんな主人公が始めたのは地産地消、いや、地元に自生している植物や川魚などの食材を用いた弁当屋だった。『ひなた弁当』とは良いネーミング。


理不尽な仕打ちを受けた元の会社に対するリベンジに執念を燃やすのではなく、まったく新たな世界に挑み、自ら窮地を乗り越える姿に清々しさを感じる。


でも、わざわざ辞めさせられた会社に出向いて弁当の営業をかけた時にはよせばいいのにと思ってしまった。それが唯一リベンジのようにも思えたが、本人にはそんな意識はなく、純粋に注文販売をさせてもらえないかというビジネスチャンスを求めての行動だったのがまた良い。


人に裏切られ、会社・同僚との縁を強制的に断ち切られた主人公を救ったのが何気ない人の縁だったというのが逆説的な寓話のようだ。


世の中、利己的な心では気づけないことが多いのかもしれない。

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小説・震災後 [小説]

小説・震災後 (小学館文庫)

小説・震災後 (小学館文庫)

  • 作者: 福井 晴敏
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2012/03/06
  • メディア: 文庫
 
東日本大震災が発生したあの日、そしてその後、自分自身が体験したことと重ね合わせることによって、多くの日本人がより一層実感を持って読むことができる作品だろうと思います。いや、否が応でもそうせずにはいられないかもしれません。

語弊があるかもしれませんが、今回の大震災はより多くの日本人が自分のこととして体験したという点が阪神淡路大震災と異なるところかなと個人的には思います。少なくとも東日本に住む自分にとってはそうでした。

震災を受けて被災地で頑張る人々の姿を直接描くのではなく、被災したとは言い難い東京・多摩地区に住む一家族にスポットライトを当てて、あの日の爪痕は「闇」となって遠く離れた人々にも影を落としているのだということを見事に描き出した福井晴敏氏の筆力はさすがだなと思いました。

あの大惨事は過去のことではありません。今現在のことであり、未来のことでもあります。今夏の電力問題等がまた喧しく論じられる中、改めてそのことを思い知らされました。

「人間は結果を生きているわけじゃない。いつだって過程を生きているんだ。だから何度だってやり直せる。いつでも、どんなところからでも、その意思さえあれば――。」本作品で一番心に残った言葉です。そして、「だから何度だってやり直せる。いつでも、どんなところからでも、その意思さえあれば――」とつながります。今回の震災を受けての福井氏の思いがよく表れている言葉だと思います。

福井氏はこの小説の中で、原子力発電に替わる発電方法として、太陽発電衛星(SSPS)を提案しています。太陽発電衛星とは、巨大なソーラーパネルを持った衛星を衛星軌道上に打ち上げ、太陽光を利用して発電した電力を地上にマイクロ波で送るというシステムです。

現時点としては克服すべき問題点も多く、一朝一夕には実現できないでしょうが、その可能性に賭けてみたい気がします。明るい未来の希望として。 

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