深泥丘奇談 [ホラー]
本格ミステリ作家である「私」が体験する怪異の数々。「それ」とか「あれ」という指示代名詞を多用し、全てが詳らかにされない勿体ぶり加減が、隔靴掻痒。主人公の言葉を借りればまさに「胡乱な気分に陥らざるをえなかった」(笑)
主人公は記憶障害に罹っているのか、「――ような気がする」という自信なさげなフレーズが随所に見られるのとは対照的に、「あれかもね」などと主人公が忘れている委細について訳知り顔の妻の存在が面白く感じられた。そのような曖昧模糊とした雰囲気作りが独特で、綾辻節炸裂という印象を受けた。
そして、もうひとつ、ほとんどの作品には「ちちち」とか「どどどっ」という音の表現が出てきていて、それが不気味な雰囲気を醸し出すのに一役買っている感じだった。
『悪霊憑き』という作品では、肝心の怪異が「*****」と伏字になっているのがもどかしく、その正体がとても気になったが、至極真っ当なミステリ作品の結末になっていたのには驚いた。これまた、本格ミステリ作家の面目躍如といったところか(笑)
全体的に恐ろしさよりも、ユーモア、そして時に爽快感すら感じさせるホラー短編集だった。
続編も刊行されているようなので、読んでみたい。
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