深泥丘奇談 [ホラー]
本格ミステリ作家である「私」が体験する怪異の数々。「それ」とか「あれ」という指示代名詞を多用し、全てが詳らかにされない勿体ぶり加減が、隔靴掻痒。主人公の言葉を借りればまさに「胡乱な気分に陥らざるをえなかった」(笑)
主人公は記憶障害に罹っているのか、「――ような気がする」という自信なさげなフレーズが随所に見られるのとは対照的に、「あれかもね」などと主人公が忘れている委細について訳知り顔の妻の存在が面白く感じられた。そのような曖昧模糊とした雰囲気作りが独特で、綾辻節炸裂という印象を受けた。
そして、もうひとつ、ほとんどの作品には「ちちち」とか「どどどっ」という音の表現が出てきていて、それが不気味な雰囲気を醸し出すのに一役買っている感じだった。
『悪霊憑き』という作品では、肝心の怪異が「*****」と伏字になっているのがもどかしく、その正体がとても気になったが、至極真っ当なミステリ作品の結末になっていたのには驚いた。これまた、本格ミステリ作家の面目躍如といったところか(笑)
全体的に恐ろしさよりも、ユーモア、そして時に爽快感すら感じさせるホラー短編集だった。
続編も刊行されているようなので、読んでみたい。
赤い月、廃駅の上に [ホラー]
10作品の短編からなる有栖川有栖版『世にも奇妙な物語』という趣きです。そこはかとなく怖く、もの悲しく、時に心がほっこりする鉄道にまつわる怪談集です。
[夢の国行き列車]
えっ、これで終わり?と思ってしまいましたが、人生の悲喜こもごもを感じさせる切ない話。
[密林の国へ]
何処に連れて行かれるのか分からない汽車の旅。地続きではあるのに後戻りできないという焦燥!?
[テツの百物語]
鉄道マニア5人が集まって、百物語を行う(実際は5話だけれども)。その果てに現れたのは幽霊列車!?
[貴婦人にハンカチを]
哀しい話かと思いきや、最後は心がほっこりする話。
[黒い車掌]
死の直前に人生が走馬灯のように駆け巡るというが、列車の車窓に見知った顔の人たちが次々と映し出されると焦るだろうな・・・
[海原にて]
船にまつわる怪談じゃないか!と思いつつ読み進めると、海の上を走る新幹線の幻を目にする!?最後にさらりと明かされる日本が滅亡したという驚愕の未来!
[シグナルの宵]
双子の片割れと名乗ってまで、行きつけのバーに戻ってきたのは何故か?まだ現世に未練があったのか?
[最果ての鉄橋]
死者の増加に伴う輸送量アップのため(?)三途の川に鉄橋を架けて、列車を走らせるというアイデアにはくすりとさせられる。そして、鉄橋から落ちると現世に舞い戻る仕組み(?)には苦笑。
[赤い月、廃駅の上に]
鬼月と呼ばれる真っ赤な月の夜、街外れの駅には、「よろしくないもの」が降り立つという本作は、表題作だけあって、気合の入った恐ろしさ。「かつて誤解から『鉄道なんてくるな』と避けたせいで、便のよくないところに駅ができてしまった」という「鉄道忌避伝説」というものがあるとは知らなかった。
[途中下車]
厄災を免れたのは亡き妻の導きなのか・・・