遠まわりする雛 [ミステリー]
- 作者: 米澤 穂信
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2010/07/24
- メディア: 文庫
〈古典部〉シリーズ第4弾は短篇集です。
奉太郎たち古典部部員の4人の距離感が、神山高校の1学期から翌年の春休みまでの間に少しずつ変わっていく様子が描かれていて、謎解きとは別に興味深いものでした。
【やるべきことなら手短に】
奉太郎がえるの興味の対象を他に逸らすような工作をして、里志にたしなめられます。この時期、奉太郎とえるの関係はまだだいぶん距離がある感じです。
【大罪を犯す】
えるが省エネ主義の奉太郎の口癖を真似て茶化すようなジョークを口にしたことからも、だいぶん古典部のメンバーともうち解けてきた様子です。でも、それよりも何よりも、えるが授業中に教師に向かって怒りを露にしたという話には驚きました。意外に芯は強い少女なのかな?
【正体見たり】
えるの心情は良く理解できませんでした。一人っ子であるえるが思い描く兄弟像とはどのようなものなのでしょう?
【心あたりのある者は】
奉太郎の推理はちょっと出来過ぎの感があります。校内放送による呼び出しから贋札に行き着くというのはどうも・・・。
【あきましておめでとう】
絶好のシチュエーションに置かれたにもかかわらず、呆れるほどに何事もなく、救出を待つ奉太郎とえる。この二人に関しては距離うんぬんを問題にするのは時期尚早という感じがします。(笑)
【手作りチョコレート事件】
本作のなかでは、この作品が一番良かったかな。チョコレートを巡る事件だけにほろ苦い内容でした。摩耶花が里志に渡そうとして作った手作りチョコレートを盗んだ犯人を巡る謎解きもさることながら、中学以来の腐れ縁で、一番身近にいた里志の心情が実はよく分かっていなかったということが奉太郎にとっては相当ショックだったのではないでしょうか。
【遠まわりする雛】
奉太郎自身が自分の胸に湧き起こった感情に戸惑いを覚え、ちょっと狼狽えている様子がおかしかった。でも、奉太郎も今ひとつ自分に自信が持てず、えるに対して気の利いたことが言えずじまい。えるが吐露した胸の内を聞くと、何だか切なくて、甘酸っぱいものを感じました。
このシリーズは、ミステリーというテイストを持った青春群像劇なんだと再認識しました。
奉太郎とえるが安易に恋愛関係に陥らない点もこの作品の良いところかも知れません。
この作品を読むと、奉太郎の心境にもちょっとした変化が現れてきたのは明かですが、えるの奉太郎に対する感情は読めません。何もないのかもしれませんが・・・(笑)
それにしても、えるが十二単をまとった「生き雛」姿は見てみたいと思いました!
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